※ FTのネタバレもどきと、デュオがロクデナシな上に、若干18禁風味なのでご注意ください。
  OKな方はどうぞ下↓

 安っぽい扉をを押すと、埃っぽい大気のせいで、スッカリ錆びてしまった蝶番の軋む。
耳障りな音を立てて開いた入り口から店内に足を踏み入れると、そこそこ賑わう店中の客が一斉にこちらを向いた。
それを無視して、カウンターへと真っ直ぐ歩を進める。
古ぼけたスツールへと腰掛けると、すっかり顔馴染みになってしまったバーテンに「いつもの」とだけ声を掛けた。
ポケットを探り、パッケージの潰れた愛飲しているタバコを取り出し、ひしゃけた一本を咥えて火を着ければ、数時間ぶりの苦い煙が、肺を満たす。
黒いコートを纏った背には、未だに痛い程の視線が注がれているのが判る。
煩い位のBGMに紛れ、視線の主達が、コソコソと囁く声が聞こえてきた。
 『アイツが、最近この街に流れてきた賞金稼ぎだろ。』
 『イカサマ師じゃねぇの?』
 『ファザーなんて名乗っちゃいるが、本当に神父か?』
 『人を殺す事に容赦しない上に、酒も煙草も、挙句に女もやる神父なんて何処に居るんだよ。』
ココに居るんだけどなと、口に出さないツッコミを入れつつ、勝手に騒ぐ連中には無視を決め込んでいると、目の前に琥珀色の液体の注がれたウイスキーグラスが置かれた。
それを掴み、一気に中の酒を喉へと流し込むと、空腹の腹にアルコールが染みる。
 『賞金稼ぎでイカサマ師の神父かよ。』
 『まぁ、ろくでもねぇ奴には違いないだろ?』
間違っちゃいない意見に、思わず苦笑う。
これだけ噂が立てば、仕事にも支障が出る。
この街には、長居しすぎたのだ。
そろそろ潮時かと、紫煙混じりのタメ息を付いた時、男共の濁声に混ざる、女の黄色い声が耳に止まった。
 『イイ男じゃない。』
 『噂以上よね。』
 『来る者拒まずで、誘えば誰とでも寝るんだって。』
 『でも、ソッチは凄いらしいって、この前、一晩過ごした子が言ってたわよ。』
男として悪くない噂に、思わず脂下がったトコロへ、ふと、先日受け取ったメールが脳裏に浮かんだ。

 [ こっちは育ち盛りが多いんだ。もっと金を入れろ。 ]

簡素なくらい短い文章にも関わらず、コメカミに青筋を浮かべて怒る様子が容易に想像できるシスター・ヒルデが、送って寄越したメールに見栄をはって、ここで稼いだ賞金の殆どを送金してしまい、今の手持ちはとてつもなく寂しい。
このままじゃ、このところ酷使している相棒に、デザートのオイルどころか、メインディッシュのガソリンさえ食わせてやることも出来なくなりそうだった。
いつもなら、適当な野郎を捕まえて、ポーカーで稼ぎたいトコロだが、そろそろ得意なイカサマもばれているだろうし、そう簡単にカモは見つかりそうに無い。
こういう時は、イカサマの次・・・いや、それ以上に得意な方法を取るに限る。
お嬢さん方の期待にも答えないと、男が廃るってもんだ。
そう思い立って顔を上げると、すっかり空になったグラスを気にするバーテンと目が合った。
視線だけでおかわりを催促すると、何も言わずに一杯目と同じ銘柄のボトルを手に取ったバーテンに、カウンター越しに手を伸ばした。
「あーいいや、それボトルごとくれる?」
一瞬、眉間に皺を寄せたバーテンは、有無を言わさない笑顔に負けたのか、無言のままたボトルを差し出す。
そのボトルの中身をグラスには注がす、直接喉へと流し込む。
アルコールを過剰摂取すると、勃たなくなったりイかなくなったりするヤツが多いらしいが、今までにそんな情けない経験はないし、少しぐらい酒に飲まれている方が、ヒイロじゃないヤツを抱くのに、五感を誤魔化すには持ってこいな位だ。
ボトルの半分程が空になり、アルコールで感覚がぼやけて来たトコロで、むさ苦しい野郎どもの苦々しい視線は無視して、熱い視線をむけている女達の方へ、くるりとスツールを回す。
急に顔を向けられた女達は、噂話をピタリと止め、じっとコチラを眺めている。
意図的に口角を上げて得意の笑顔を作り、にっこりと笑いかけてやれば、一斉に艶を含んだ眼差しを投げて来た。
所詮、女なんてこんなもんだ。
心の中で、ペロリと舌を出す。
程々の容姿と甘い言葉、後はベッドの上のテクニックさえあれば、大概の女は容易に堕ちる。
大して難しい事はない。
どの女を引っ掛けるかと、値踏みするように集団を見渡せば、しなを作る女達のテーブルよりも奥から、じっとこちらを見詰めている、どこか懐かしささえ感じる強い視線を感じ取った。
アジア系には珍しい青い瞳ときつく結ばれた薄い唇、短いブルネットの容姿に、思わず目を見開く。
「ヒイ・・・ロ・・・」
今、アイツがこんな場末の酒場に居るはずはないのだと、意図せずこぼれた名を、首を振って否定する。
改めて眺めれば、ヒイロとは別人なのは直ぐに判る。
筋肉の無い細い首と、女らしい丸みを帯びたふくよかな胸元は、ヒイロには無い。
けれど、酔って視点が曖昧になった目には、まるでヒイロがコチラを眺めているかのように写る。
いくら外見が似ているからとはいえ、まさかヒイロと他の女を見間違えるなんて。
「ははっ・・・オレも焼きが回ったもんだ。」
自傷の笑みを浮かべそう呟くと、緩やかにスツールから腰を上げる。
十分に回った酒のせいで覚束無くなった足取りで、その女の前へ立つ。
「オレに興味ある?」
「・・・少しは。」
ぶっきら棒な言い草も、どことなくヒイロを髣髴とさせた。
「じゃぁ、その興味がもっと沸くように、オレと一晩を一緒に過ごしてみるのはどう?」
突然の提案に、しばらく思考を巡らせた後、女らしくない話し方で頷く。
「・・・悪くは無い提案だ。」
そう言って、ブルネットの美人は椅子を引いた。
立ち上がった女は、期待していただろう女共の集団からのやっかんだ視線を気持ちいいくらい無視して、出口へと向かい、通りすがり様に、二人分の飲み代を払っても十分にお釣りがくる金額をカウンターに投げる。
これで今夜の飲み代は心配なくなったと、小さく微笑んだ。
物言いた気なバーテンに軽く手を上げると、160cmには満たない小さな身体を抱き寄せる為に腕を伸ばす。
しかし、女はその身をスルリと滑らせて腕から逃れたうえに、たしなめる様な冷たい目線を投げて寄越した。
「エスコートしようと思っただけなんだけどなぁ」
行き場を失った手で頭を掻きながら、笑顔を向ける。
「必要ない。」
そう言って、こちらを振り返る事なくドアを開けてとっとと歩いて行く。
大概の女は、笑顔を見せれば嬉しそうにすし、肩を抱けば喜んで体を摺り寄せてくるから、予想外の行動にちょっと楽しくなり口笛を吹いた。

 店を出ると、火星の強い風が揺らすブルネットを眺めながら、大人しく後ろを着いて行く。
酒場から程近い安いモーテルの一室に運良く空きを見つけ、ここでも女が料金以上の金を払うのを見守った。
今晩の宿も無事に確保できた安心感に、つい頬が緩む。
部屋に入ると即座に、埃まみれの上着を床に脱ぎ捨てると、商売道具の詰まったコートの見た目以上の重さに、ドスンと鈍い音を立てた。
女が、眉間に皺を寄せる。
「いったい何が入ってる・・・」
「そんなコトは、これからヤル事には関係ないだろ。」
女からの質問を、やんわりとかわし、ベッドに腰掛ける。
安物のスプリングがギシりと軋む。
久しぶりのベッドを前に、若くない体は疲労を訴えていて、早くこのまま横になって寝てしまいたいと訴えかけていた。
ゆっくりと休む為には、あの手この手で言い包めて女を帰してしまうに限る。
が、こんなイイ女はそうは居ない。
一度ぐらい味見おかないと、勿体ないってもんだ。
Tシャツの裾に手を掛け、一気に脱ぎ去る。
こちらを見ていた女が、晒しだ出された上半身に目を見張る気配がした。
放浪生活で昔より荒れてしまった外見とは違い、どっかのサーカスのピエロ程じゃないが、商売柄ある程度は鍛え上げている。
女に向かって、腕を差し出す。
「ほら・・・来いよ。」
低く囁いた声に操られるかの様に、静かに歩み寄って来た女の腰を、尽かさず太い腕で引き寄せた。
今度は、抗う様子を見せず、さっき店の中で無下にあしらった腕に女は抱かれ、従順に身を任せてくる。
普段は無愛想なくせに、こういう時には素直になるトコロもヒイロに似ていて、酔いと疲労で半分は動きを止めてるんじゃないかと思う脳味噌は、目の前の女に『ヒイロ』というフィルターをかけている。
何年経っても忘れる事のない、甘やかなヒイロの痴態が、脳裏に鮮明に蘇る。

 ヒイロの敏感な体は、持ち主の意思に反して、与えられる愛撫の意のままに反応した。
「・・・やめ・・・ろっ」
快感にしなやかな体を震わせながらも口にする、形ばかりの抵抗が可愛らしかった。
熱い杭を打ち付ければ、体内は熱く、蕩けた狭孔の壁はしっとりと絡みついてきたっけ。
「・・・っ・・・っは・・・」
「んんっ・・・あぁっ・・・」
そして最後には、悦楽に溺れ、淫靡な姿を晒す。
「・・・ぁ・・・はぁっ!」
一段と高い喘ぎを漏らし、喘ぐ声も艶めかしい。
「あ・・・あぁっ・・・!!」
背に爪を立てながらも三つ編みを掴み、絶頂へと駆け上がり、薄い腹へと白濁液を散らす。
吐精を見届けてから、限界まで堪えた欲望を最奥へと叩き付ける瞬間がたまらなかった。
性交後、力の抜けたしっとりと汗ばんだ体を摺り寄せる仕種も愛おしい。

 想像と記憶だけですっかり勃ち上がった下半身がすらりとした脚に当たり、男根の布越しでも十分に判る大きさに、腕に抱いていた女は息を飲む。
女の掌を掴み、張詰めた下半身へ添えさせる。
「コレ、欲しい?」
コクリと頷いた女の、豊満とは言い難いが、柔らかな谷間に顔を埋めた。
ヒイロとは違う柔らかな感触に、一瞬下半身が萎えそうになったが、薄い唇から吐息が零れたのを見計らい、ろくな愛撫もしないまま、女の下着の中に手を突っ込む。
「・・・ぁんっ・・・」
甘い声が漏れた途端、聞きなれない着信音が部屋に響く。
初めは自分の携帯から発せられているとは気がつかず、意に介していなかったのだが、床に放ったコートの中で鳴り続ける音に、ふと我に返る。
随分と昔に相棒にしていたモビルスーツの起動音を模したそのメール着信音は、ある場所からの連絡専用に設定されている音で、今まではたった一度鳴ったっきりだ。
慌てて、女から身を離す。
「ワリぃ。」
片目を瞑って詫びを告げ、コートの中を探り携帯を取り出す。
フリップをあげると、急いでメールへと目を通す。
想像通り、送信者はプリベンター内でも一部の者以外には極秘になっている最重要施設のラボからで、用件の内容は、限りなく事務的な物だ。

[ プロジェクトコードNo:000021 ]

性別:Male

ゲノムDNA:Class A
遺伝バランス:Class A
知力:Class A
成長度合:Class B
身体能力:Class AA
感情:Class B
総合評価:Class A

本日、対象者をシュバイカー教会へ逓送終了。
無事到着を確認済み。

その内容に、思わずニヤリと笑みが零れた。
成長度合の遅さが少々気にはなるが、DNAの半分が東洋人のモノだから仕方のない事だろう。
感情については、無愛想なタイプと喜怒哀楽をはっきりするタイプの二人に似れば、多少は感情起伏が激しいかもしれない。
それ以外は、全く問題はない。というか、想像以上だ。
前回、ココからのメールがきたのは、DNA合成に成功した時以来だから、既に5年近くの歳月がたっている。
「あいつももう4歳くらいか。」
独り言を耳に留めたらしい女が、首を傾げた。
「子持ち?」
普段なら上手く聞き流してしまうだろう質問に、気分を良くして答える。
「今は、まだ違う。」
「結婚してるのか?」
「さぁ、どうだろう」
「お前、最低だな。」
今まで幾度となく言われ慣れた罵倒の言葉は、褒め言葉にさえ聞こえてくる。
「それはどーも。」
そう言って笑う様子に、女は藍色の目を細めた。
女のカンってやつが働いたのだろう。
何も言わずに、乱れた服を直し始める。
「お前が帰るのか?」
「あぁ。」
本来は、コッチが追い出されて然るべきだ。
「いや、オレが出てくわ。」
いつもなら喜んで帰る女を送り出すはずなのに、何故か、自らが退出する事を提案してしまった。
「よっぱらっているのにか?」
「どっかで、酔い覚ましてから行くよ。飲んだらバイクには乗らない主義なんだ。」
今は幾らか気持ちが急いていて少しでも早く出掛けたいのか、それともヒイロと良く似た行きずりの女を一人追い出す事に躊躇があるのか判らないままに、床に脱ぎ捨てた黒いコートを拾った。
無造作に羽織り、扉に手を掛けた所で、ふと足を止める。
足早に部屋の中央に戻ると、、背を向けている女の肩を後ろからふわりと抱いた。
「イイ女抱けなくて、残念だった。」
半分はお世辞だが、半分はちょっと本気の言葉を呟き、ヒイロと似たブルネットの髪に小さく唇を寄せた。
女から腕を離し、くるりと踵を返す。
ドアノブに手を掛けると、後ろから声を掛けられた。
「奥さんと子供によろしく。」
女はぶっきらぼうに告げ、コチラを見向きもせずにサヨナラと手を振っている。
「さんきゅ」
見てはいないだろうが、今日一番の笑顔で返事をして、ドアを開けた。
廊下へと踏み出してから首だけ振り向き、扉とは反対方向にある窓を見詰めている女を見る。
「ま、ホントの嫁さんに会えるのはいつになるか判んないだけどな。」
そう独り言のように呟いて、安モーテルの部屋を後にした。