【1】

美少年のヒイロに男女問わず(特に男。笑)言い寄り、
それを嫉妬心と独占欲剥き出しのデュオが追い払うーーーーーー
というのが日常の光景だった。
プリベンターメンバーも、そんな日常に慣れていた。
しかし、最近は状況がかなり違った。
デュオが、言い寄る女に囲まれるという事が、頻発しているのだ。

『デュオが、ヒイロの任務終了を待ちながら、オープンテラスの喫茶店で
コーヒーと煙草を堪能していると、見知らぬ女性が急に同席してくる。』
とか、
『デュオが、ヒイロへのお土産を物色していると、女性店員が必要以上にあれこれを詮索してくる。』
等々という状態なのだ。

ヒイロは関係無い風を装ってはいるものの、時折滲み出る異常なまでの殺気に本部内は緊張感が張り詰めている。
お陰で、周りのメンバーはハラハラする日々が続いている。

デュオは何かと理由を付けては、勤務中でも前以上にヒイロに擦り寄るが、ヒイロは無視を決め込み、本部内でもデュオに近付きもしない。
他のメンバーは、2人の自宅では一体どんな状況なのか、想像するのもデュオが不憫で仕方が無いと思っていた。

デュオはいわゆる、『イイ男』と言われる外見をしている。
民族の特徴、蒼い瞳。
戦争後伸びた、高い身長・長い手足。
人懐っこい、笑顔。
お喋りも巧い。
挙句に、特徴的な長い三つ編。

今までも、全くモテない訳ではなかった。
が、デュオの眼にはヒイロしか入って無かったのだ。
言い寄る女性が現れても、断り続けるか、軽く受け流していた。
加えて、街中でもいつもヒイロという美人が一緒に居る事が多かった為に、周囲は
『素敵なカップル』
という総称で受け流されていた。

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事の発端は、デュオのこなした任務だった。

普段は潜入や妨害工作が得意なデュオは、裏方な任務の多い。
しかし先日、急遽視察を言い出したコロニーの要人護衛任務を、たまたま当日本部に居たデュオが受けたのだ。

未だコロニーに対して不信感を持つ反乱分子にとって、街中を視察しようとしているお偉いさんは、悪い意味で『良いカモ』だった。

案の定、視察先で白昼堂々と狙撃された。
それも、一般市民が行き交う繁華街で起きてしまった。

サイレンサーを着けている銃独特の、音の無い発射音がする。
デュオはそれを聞き逃さなかった。
「ちっ」
小さな舌打ちと共に、お偉いさんを部厚い装甲で囲われた車に押し込むと、安全な場所への発進を指示する。
車は、そのまま猛スピードで走り出す。
その場を去ろうとする車を追うように、次々に銃弾が打ち込まれる。

周りの一般市民が悲鳴と共に混乱状態に陥り、近くの建物に逃げ込む。
しかし、余りの事にその場で動けなくなってしまった女性が、銃弾の道筋上にしゃがみ込んでしまった。

「うわっ、バカっ。」
デュオは憎まれ口を叩きながら、もの凄い速さで女性の元へ駆け出す。
そのまま、女性を銃弾から守るように自分の胸元に抱きかかえ、安全な場所へ飛び込む。

「お嬢さん、怪我は無いかい?危険に巻き込んじまってワリィな。」
半ベソ状態の女性に満面の笑み&ウィンクを残し、ジャケットの内側から愛用の銃を抜き出し、狙撃犯を追う為に弾嵐の中へ颯爽と飛び出して行った。

その後勿論、狙撃犯の捕獲に成功した。

お偉いさんも守り、犯人を捕まえ、巻き込まれそうになった一般人女性まで助け、
大きな被害無く、任務を完了させた。
捕まえた狙撃犯の口から、反乱組織の情報も聞き出せそうだと、レディ・アンも言っていた。

『デュオもやるときは、やるなぁ』などと、周り(特に五龍。笑)も納得した任務内容だった。

そこまでは、良かったのだ。
ところが、その事が現在の緊張感みなぎる本部という状況の発端になってしまった。

事件が、街中、人目の多い場所で起こってしまった為、その場に居合わせた一般市民も多い。
その中で、デュオの行動を目撃してしまった女性達も少なくない。
カッコ良く助けられ、優しい台詞を言われてしまったあの女性が居た事も、
この世で一番恐ろしい
『女性の噂話』
が広がる事態に拍車を掛け、事件の起きた街でデュオはちょっとした有名人になってしまっていたのだった。

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「何故、自分には恋人が居ると言わない?」
トロワが不思議そうに、ヒイロの徹底した冷たい反応に居たたまれなくなり屋上で紫煙を燻らせているデュオの背後から問い掛ける。
「最初は言ったさー。それも『フィアンセが居る』って、はっきりな。」
でもよ~と、言葉を続ける。
「『どんな人なの?会わせてっ!』逆に煩くなっちまってさ。」
「お前より煩い奴等もいるのか。」
トロワが感心したように言う。
煙草に口をつけながら、デュオは苦笑いをする。
「本当はそこで、ヒイロを会わせればいいんだろうけどさー。でも、そんな事でヒイロを見世物状態にしたくねぇんだ。」
「ヒイロには、ちゃんと説明したのか?」
「何度も、あの女達の事なんて、何とも思っちゃいないって、説明したんだけど、
『俺には関係ない』
とか
『お前の好きにすればいい』
とか言ってばかりでさぁ…」
デュオが、ヒイロの口ぶりを真似しながら、溜息と共に白い煙を吐き出す。
「そうか…」
トロワは手を口に当てて押し黙った後、ゆっくりとその場を立ち去った。

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トロワが向ったのは人目に付き難い場所にある電話だった。
相手の顔も見れる動画電話の向こうには、カトルが説明を頷きながら聞いていた。
「…と、いう事だ。」
トロワは、簡単にしかし的確に一通りの現状説明をする。

「僕はヒイロの殺気は、デュオに対してでは無く、言い寄る女性に対してだと思うんですが。」
「そうか?」
「要するに、ヒイロの『やきもち』でしょう。」
「しかしデュオの話だと、ヒイロはデュオの話に耳を貸していないように思うのだが。」
「きっとヒイロ自身も、どうして良いか判らないんでしょうねぇ…」
うーん、とカトルが考え込む。

「じゃあ、いっそのことヒイロに素直になってもらいましょう♪」

カトルが、お馴染みの『悪魔な微笑み』でにっこりと笑う。

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久しぶりの公休日の午後、デュオは時間を持て余していた。
ヒイロは通常出勤日の為に、任務に就いている為自宅には居ない。
いつもなら、ヒイロだけが出勤の時は街を探索してヒイロ迎えに行くまでの時間潰しをする事が多い。
しかし、最近の状況では街に出ない方が懸命だろうと、自宅でなかなか過ぎない時間を、煙草とコーヒーで誤魔化していた。
電話が着信を告げる音を鳴らす。
延ばした指でボタンを押す。

「やあ、デュオ。お元気ですか?」
カトルの明るい声が聞こえる。
「よぉう、カトル。どうした?」
「今日、これから時間有ります?僕、近くに居るのですが、久しぶりに時間が取れそうなんですよ。」
カトルは陽気を装い、極力明るい声で続ける。
「一緒にお茶でもいかがですか?」
「う~ん…あんまり外出たい気分じゃないんだよなー。でもまぁ、ヒイロも出掛けちまって居ないしなぁ。」
は対照的な、デュオらしくない沈んだ声がカトルの受話器の向こうから聞こえている。

「美味しいお酒出す店知ってるんですよ。それもとっておきの!」
デュオの酒好き心を上手に擽る。
「…行こうかな。」
デュオの声が少し、トーンが上がる。

「じゃあ…」
と、カトルから指定された待ち合わせ場所を手早く聞くと、デュオは受話器を置いた。
待ち合わせ時間までは余り時間が無い。
デュオは時計を確認し、待ち合わせの場所へ出かける為に、そのまま立ち上がった。

「ふふふふっ♪」
カトルが電話を置いた向こうで細く微笑んでいる事をデュオは知らない。