意識の遠くで何かが揺れ動く気配がするー
慌てて、手放し掛けていた自己意識を直ぐにでも攻撃に反応出来る位まで引き戻し、身動きせず、周りの状態に神経を張り巡らす。その神経の先には…
『窓際に立つ愛しい人の姿。』
気配の正体はこれか―

「…悪い。起こしてすまない。」
抑揚は無いが、すまなそうに聞こえる声に、「ほっ」とする。
「…んぁ、そんな謝る事じぁねぇよ。オレもそんなに深い眠りじゃなかったしな。それにしても、よっくもまぁ、動いてないオレが起きてるの分かるね。さっすが、ヒイロ♪」
詰めた息を抜き、ディオ・マックスウェルは、勤めていつも通りの明るい声で、恋人ヒイロ・ユイに返事をする

『オレもまだ戦いの日々の緊張が抜けてないのか…』

心の中で苦笑いをし、それが表情に出てしまうのを誤魔化すように、ヒイロに目を向けず、サイドテーブルに置いてある煙草に手を延ばし、1本咥え火を付ける。
一吸し、灰皿を取る為に、上半身を起こす。
さっきまでヒイロの頭を乗せていたはずの、少し痺れの残る腕を自分側に引き寄せる。

煙草の効果で、自分の表情がいつもの「ディオ・マクスウェル」に戻ったのを確認し、窓際に立ちつづけるヒイロにやっと目を向ける…

『少し開かれた窓からそよぐ風が、コバルトブルーのカーテンを揺らし、ほのかな月明かりをも揺らす。そこに立つヒイロは、まるでコバルトブルーの翼が生えているかの様な姿。自分を真っ直ぐ見つめる群青の瞳・・・』

「…っつ…」
見慣れているはずなのに、視線が離せなくなる。

穢れ無き群青の瞳ー
何度醜い欲望で汚しても、失われる事のない美しさ。
この気高く美しい人を守りたい。そう願っても、自分の独占欲やエゴで強引に奪ってしまった。
それなのに、未だ純潔の処女のような視線に、自分自身を責めながらも欲してしまう。
「そんな所に立ってると風邪引くぞ~」
「気にするな。俺はこの窓辺が気に入っている。」
カーテンを掴みながら、ヒイロが言葉を続ける。
「おまえの瞳と同じの色をしたこのカーテンから零れる月光の中に居と心地良い。」

デュオは、自分がヒイロの瞳の事を考えていた時なに、突然に自分の目の色が話題に出たのにびっくりしてしまった。
「おいおい、何言ってんだよヒイロ。そういえば…」照れもあり、話題を変えようとする。しかし、ヒイロはその言葉を遮るように、話を続ける。
「まるでお前の瞳の中に居るようだ」
デュオは咄嗟にベットから立ち上がり、ヒイロを後ろから包むように抱きしめた。そして、自分が泣きそうになっているのを誤魔化すように、ヒイロの首筋に優しく口付た。

『どんな事があっても、ヒイロを守る』と心に固く誓いながら。

しかしデュオはその誓いを護る事が出来なかった。

あの窓辺の夜から数日後、2人に極秘の『MS秘密製造工場の破壊任務』が与えられた。
潜入した秘密工場でデュオは大きなミスをした。

工場爆破の寸前に、発見されてしまったデュオは、ある理由で爆破をためらってしまったのだ。その一瞬のせいで、脱出してから爆破スイッチを押すと言う作戦の予定が狂い、ヒイロが自分自身が工場内に残ったまま爆破スイッチを押してしまったのだ。

「畜生っ、畜生!オレは何をやってたんだ!」
何度、悔やんでも悔やみきれない。

かろうじてヒイロを連れ出し、病院に担ぎ込んでから丸二日。ヒイロの意識は全く戻る気配を見せない。かろうじて、細い体に繋がれた心電図の「ピッ、ピッ」という音が生きている事を伝えているだけだった。それを見ているしか出来ないでいる自分。デュオは自分自身に腹が立って仕方が無かった。

デュオが、爆破を戸惑ってしまった理由-

自分を発見した敵兵がヒイロと同じ『真っ直ぐな群青の瞳』だったからだ。ヒイロの瞳では無い…そう判っていたはずだったのに、何故か体が動かなかった。
そのせいで、本当の『群青の瞳』は開かれないままなのだ。あんなに固く「守る」と誓ったのに、どうして?何故?そんな後悔ばかりが自分で自分を追い詰めて行く。
ヒイロの白い柔肌、しなやかな細い指、静かな声、桜色の唇、群青の瞳、そして髪の毛1本1本の存在までもが、デュオの全てを捕らえて離さない。

「ヒイロ、ヒイロ、ヒイロっ」
包帯が厚く巻かれた動かないままの手を握り締め、デュオは果てしなく愛しい人の名前を呼び続ける。

「オレの欲望や執着心がヒイロの生を脅かす結果になっちまってるんだよな…こんなオレを助ける為に、ヒイロは躊躇無くスイッチを押しちまったんだから。」
デュオは優しくヒイロに最後の口付をした。唇が触れるかどうかのキス。

「オレは正真正銘の『死神』だぜ。」
自分自身に薄笑いをし、静かに病室を後にする。

その日から、デュオ・マックスウェルは完全に姿を消した。

2人が肌を合わせていた部屋の窓辺にコバルトブルーのカーテンだけを残して…

[ END ]

サイトOPEN時からUPした、初期の駄文です。

■あとがき(別名:言い訳)■